神! 繊細でありながら骨太の名作

憂鬱な朝7 (CHARA コミックス) [ 日高ショーコ ]
10年にわたる連載だったそうです。
ついに完結しました。『憂鬱な朝』。最新刊8巻だけではなく、1巻から読み返しましたよ。
ラブコメ中心のBLのようにさらっと読むことができず、なかなか全巻読むのは時間がかかりました。
読み応えありすぎというか。

この時代の社会や時代の流れ、経済についても書き込まれているので、途中で理解するのに読み返したり、考えたりすることが多いですね。
それに以上に、登場人物たちの心の変化。これについていくのも、なかなか骨が折れます。
そのくらい、素晴らしい作品です。

以下、ネタバレ注意!!



暁人と桂木、4巻あたりでやっと恋は成就したのに、二人ともが相手を久世家の当主にしたいと勝手に画策するものだから、いろいろとすれ違い、読んでいてハラハラさせられる場面もありました。
5巻の森山家のシーンで、暁人が桂木の思惑に気づいて、計画を阻止してしまってから、桂木がちょっとスネちゃって、そこがなんだか辛かったです。暁人にだけは叶わないというか、どうしても思い通りにならない。
自分が育ててきた子に、ここまで追い抜かされるのはかわいそうな感じ。
桂木はもう、久世家当主になる気はないのだから、おとなしく暁人がそのまま返り咲く道を二人で見つければいいじゃない、って感じですけどねー。直継様に譲りたくないにしても、たった数年のことだし、結婚できないとか、世継ぎ作れないとか何とか、そんなの、どうにでもなるような気が。

6巻以降、桂木は悶々とする。
二人の周りの人たちがさんざん言っていたように、読み手の私も、「なんでもっと話し合わないの!?」って思いました。
気持ちは通じているのだから、あとは久世家や暁人の今後をどうするかの考え方のすり合わせだけのような。
つまり読者も、二人の身近な友人と同じ気持ちにさせられるのですね。

でも、この作品がすごいのは、二人の考えていることがいくら食い違って、いくら状況が困難になっても、一度思いを告げあった後は、別れたり、一方的に離れたり、モブに邪魔されたりという、よくあるパターンにはならなかったことですね。
両思いになった後のラブコメって、たいていパターンが同じじゃないですか。
でも、この作品は、ラブが順調でも、ドラマはいっぱい!
桂木はもう暁人に会わない気なのかも、と思ったら、6巻の冒頭から会いに行っているし。
お互いの本心を隠したままでも、愛はかわしている。
久世家はどうなるの? 別れないでお願い! みたいなことを考えながら後半は読みましたよ。
桂木が、恋からも身を引こうとしなくて、本当に良かった!

7巻の冒頭で、せっかく暁人と会ってきたのに、重要なことを話し合ってこなかったらしい桂木に、雨宮が「二人で何してたんですか!」と言うシーンがありますが、何って、ナニしかしてなかったわけで、こちらも雨宮と同じ意見ながら、二人の様子をずっと見て(読んで)いたもので、ニンマリしてしまいますね。

そして、7巻でひと騒動合って、石崎家を出た桂木は、鎌倉で表向き療養中の暁人に会いに行き、暁人は、8巻冒頭から、少しずつ自分の久世家再建計画を話していく。
二人ともがアイデアを出すと、桂木は絶対に自分の信念を曲げないから、暁人は言い出せなかったのでしょうけど、やっとだよー。
桂木も、久世家から離れたので、冷静に聞くことができるのでしょうね。一歩引いたところにいないとダメな人のようです。
その代わり、暁人や久世家以外のことは絶対に成功させていく。
石崎息子の結婚や、石崎父との勝負、株の売買、そして自分が携わる事業など、すべてに才能を発揮。

そしてなんだかんだで、桂木兄×2も味方になり、石崎息子からは熱い信頼を得、石崎父とは対決するも勝利して紡績工場の社長に収まる桂木。他にも味方がたくさん。

暁人は未来の久世家というか、久世グループを担う若者を連れて2年間、英国へ留学。
2年間は離れていたものの、帰ってきたらまたラブラブ。
久世の事業拡大もうまくいくんでしょうね。
桂木が自分の会社をどこまで大きくしていたのかが気になるところ。

そしてラスト、直継氏の息子、直矢を引き取り、次代の当主として二人で育てていくんだろうな、というところで終わる。
綺麗にハッピーエンドでした。


とはいえ、ちょっともやっとする部分もありました。私の理解力が低いのかもしれませんが。
この場合、桂木はどういう立場で久世家に出入りするんでしょう?
直矢を迎えるとき、久世家で偉そうに家臣たちに命令していたけれど。
やっぱり教育係? でも住んでいるところはきくの家だというし。
桂木家が久世家の名代だとしても、あっちの代表は兄だし、久世の事業と桂木の会社が連携するとしても、外の会社の社長ってだけじゃないの?

暁人は隠居を終えたのだから、当主に返り咲くんでしょうか。
それとも、直矢が名目の当主? しかし、暁人が事業を頑張ってたら、病弱じゃないのはバレそうだしなー。
ただ、書生の一人に桂木家の親せきを選んだのは、「僕の代わりに表の顔になってほしいから」とか言っていたので、表向きはずっと隠居なんでしょうかねー。
結婚しなくても、後継ぎができたのだから、元気になって当主に戻っても、誰も文句言わないんじゃないでしょうか。
暁人が年を取って本当に引退してから、育ててきた直矢が立つんだと良いのにな。
華族のしきたりも、なんだか緩んできているみたいだし。
って、暁人と桂木の当主譲り合い騒動が起きてからラストまで、ほんの3~4年の話なんですよね。
皆ずいぶん近代的になりましたねー、考え方が。
これも暁人の人柄のなせる業??

考えてみれば、最初から普通に暁人が当主のままで家を守り、桂木は外の会社で大きな事業でも始めれば、それで済んだ話のようにも思ってしまいます。
桂木が党首の座に興味を失ったことを早く言うか、暁人が自分の計画を早く言ってれば、隠居することもなく、学校も首席で卒業し、公費で留学、貴族院に入り、いずれどっかから養子をもらって、っていう風に通常運行できたのでは。
でも、それだと、桂木兄や周りが変わっていくことはなかったのかな。二人の成長も。
桂木兄自身も、二人のねじれが久世家の体制を変えたと言っているしね。
ただ、暁人が裏方なのがもったいない~~。学歴も低くなっちゃってるのももったいない~~。

あと、直矢の母も久世家に迎え入れるそうだけど、暁人と教育方針で対立したりしないのかしら。
絶対、厳しく育てられそうだものね。
それと、未亡人とのあらぬ噂が立ったりしないのかと。病弱だとしても独身のままだとねー。どうでもいい心配かもしれませんが。


読み終わってこうやっていろいろと考えてしまうということは、それだけすごい作品なんですよねー。
本当に読みごたえがあり、BLの萌えも存分にあり、文句なく名作でした!
最近は、BLもアニメ化、しかも地上波で放映されるけれど、こういう骨太の作品こそ、アニメになってほしいと思います。
8巻分あれば、描写も細かいのだから2シーズンぶち抜きでできそう!
バナナフィッシュ(BLじゃないけど)と肩を並べる名アニメになること間違いなしです!
期待してます!

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